engagement(約束/婚約) 5/26

「ねえ、私と約束をして?」
うん、何を?
「もう、私と会わない、っていうこと」
え?
「私と会わない、連絡もしない、干渉しない、共通の友達から私のことを聞きださない、そういう、私にかかわること全部を断つ、って約束してほしいの」
それって、どういう・・・。
「私を愛してくれているのはよくわかるわ。でも、私がここから出て行って、どこに住もうがどこの誰と手をつなごうがキスしようがセックスしようが干渉しない、でもそれは私を愛しているから、って。そう、約束してくれたら良いな、と思って。私だって、もう会わないって約束するしあなたがどこの誰と何をしようがなんとも思わないわ。もしそれを知ったとしても、暖かい気持ちであなたを見守るって約束するわ。だから、ね?約束」


彼女はそう一気にまくし立て、僕の小指を無理やり掴んで、指きりげんまんをして見せた。
それから「さて、と」といつもの調子で立ち上がり、自分の荷物をダンボール3箱分はまとめて玄関に積み上げて、「後は捨ててもらってかまわないから」とさらりと髪をなびかせて出て行ってしまった。荷物をまとめながら、ふたりの結婚資金としてこつこつ貯金していた200万円が入った通帳をしっかりと鞄にしまい、「これは私の約束手形としてもらっていくから」と笑顔で言った。
外は雨が降っている。土砂降りの雨。
彼女は、その雨の中を歩いていく。お気に入りの水玉の傘をさして。
僕はただ、呆然と雨を眺めながら、いつものように彼女がジーパンの裾を濡らしてやいないか、そればかりが気になった。