borderline(境界線/きわどい) 2/26

わたしのまわり、全身の皮膚からちょうど十五センチのところには、薄い膜がはっている。
その膜は、全身隈なく覆っていて、でも不思議と物は掴めるし食べることもできるし服を着ることもできる。服を着ると、薄い膜はふわりと浮いて、服ごしに、またわたしの身体を包み込む。白シャツ、リボン、チェックのスカート。そのどれもが膜に包まれ、風にも揺れない。いつも生暖かく、湿っている。
その色は薄い青色で、わたしの世界はすべて薄青く見える。そのせいか、わたしの記憶はいつも薄青くひかり、ぼんやりとしていて、いつしか、わたしは昔のことも昨日のこともあまりうまく思い出すことができなくなった。この膜がはられたのはいつからだったか、それすらもうまく思い出すことができないけれど、膜がなかった最後の日、わたしは新しい制服を来て、あの子と一緒に笑っていた。桜の木の下、大きな門の前、青い空。その記憶はとても鮮明で、鮮明で。その記憶だけがわたしを掴んで離さない。


「わたしはなぜ、あの時あの子と笑っていたの?」
その理由はもうすでに、薄青い沼の中。


「ねえ、今なんか聞こえなかった?」
「え?何も聞こえないけど。何それ。なんかきもーい」
走り出す、笑いながら、逃げるように。揺れる、スカートの裾。


わたしは薄い膜の中、その記憶だけを抱きしめて、静かに息づき、ひっそりと生きている。